
新規事業の立ち上げや起業に取り組む際、一般的には市場の将来を予測し、戦略や計画を立てる方法が用いられます。しかし、先行きが予測しにくい現代においては、このようなアプローチでは難しいケースがあるのも事実です。こうした不確実な環境で成果を上げるための有効な考え方の一つは、エフェクチュエーションです。本記事では、エフェクチュエーションの意味や5つの原則、コーゼーションとの違いについてわかりやすく解説します。
エフェクチュエーションとは
エフェクチュエーションとは、成功した起業家の意思決定や行動に共通する特徴を分析し、体系化した思考法です。この概念は、米国バージニア大学のサラス・サラスバシー教授によって提唱されました。特徴は、今自分が持っている資源や置かれている状況に目を向ける点です。具体的には、今あるリソースで何ができるかを考え、行動につなげていきます。
近年は不確実性が高まっており、将来の見通しを立てることが困難です。そのような環境において、行動しながら可能性を広げていくエフェクチュエーションの考え方は、成果を上げるための有効なアプローチと言えます。
コーゼーションとの違い
エフェクチュエーションを理解するためには、対照的な考え方であるコーゼーションとの違いを押さえることが重要です。
コーゼーションとは、将来を予測したうえで目標を設定し、その達成に向けて計画を立案・実行するアプローチ手法です。従来の経営戦略や事業計画では、このコーゼーションが一般的に用いられてきました。
一方、エフェクチュエーションは、明確なゴールを最初に定めるのではなく、今ある資源や状況を起点に行動を進めていく思考法です。両者の違いは、以下のとおりです。
| 項目 | エフェクチュエーション | コーゼーション |
| 思考の起点 | 現在持っているリソース | 将来の目標・目的 |
| 事業の展開の仕方 | 行動を通じて道を切り拓く | 将来の予測から計画を策定し、実行する |
| 不確実性への対応 | 不確実性を前提に活用する | 不確実性を減らすために予測精度を高める |
コーゼーションは市場や顧客ニーズがある程度鮮明な場合に向いています。一方、環境変化が激しく、不確実性の高い分野においてはエフェクチュエーションが有効です。
エフェクチュエーションが注目される背景
現代は、次のような要因によって不確実性が高まっています。
- AI技術の急速な進化
- 国家・地域間における紛争の拡大
- 新型ウイルス感染症の流行
このような外部環境の変化は、将来を正確に予測することを難しくし、従来のコーゼーションのアプローチで対応しきれないケースを増やしています。
そこで注目されているのが、不確実性の高い状況でも成果を上げてきた起業家の思考法であるエフェクチュエーションです。
エフェクチュエーションの5つの原則

エフェクチュエーションは5つの原則によって構成されています。それぞれの原則についてわかりやすく解説します。
手中の鳥の原則
人材・技術・知識・人脈といった現在手元にあるリソースを洗い出し、「今持っているもので何ができるか」という視点からアプローチする考え方です。この原則を取り入れるメリットは、リスクを抑えながら挑戦できる点にあります。すでに持っている資源を活用するため、新たな投資を最小限に抑えられるからです。
例えば、新規事業では十分な資金や人材を確保できないケースも少なくありません。そのような状況でも足りないものに目を向けるのではなく、今できることを実施することで、実績を積み重ねながら成長を目指せます。
許容可能な損失の原則
失っても受け入れられる範囲の損失を基準に意思決定を行う考え方です。コーゼーションでは、将来に期待できる利益をもとに戦略を立案するのが一般的です。しかし、リターンばかりに目を向けてしまうと、一度の失敗が企業全体に深刻な影響を及ぼすリスクがあります。特に不確実性の高い環境では、想定外の要因によって計画が崩れる可能性も否定できません。
成果を上げている起業家は、このようなギャンブル的な事業展開を避け、許容できる損失の範囲内で試行錯誤を重ねる姿勢を取っています。この考え方を取り入れることで、リスクを抑えながら挑戦を続けることができ、新たなイノベーションの創出にもつながります。
クレイジーキルトの原則
クレイジーキルトとは、形や大きさの異なる布を不規則につなぎ合わせて仕上げるキルトの技法です。クレイジーキルトの原則は、この技法になぞらえ、顧客・消費者・従業員・パートナー・競合企業など、様々なステークホルダーと関係性を構築しながら形作っていく考え方を指します。
ステークホルダーとの関係構築を重視するメリットは、単独では得られないリソースや知見を取り込める点です。パートナーや顧客と協働することで、事業の選択肢や可能性が広がります。
従来の競争重視の手法では、競合企業は「勝つべき相手」として捉えられてきました。一方、クレイジーキルトの原則では、競合企業もステークホルダーの一部として捉えます。この柔軟な発想が、不確実な環境下での事業推進に役立ちます。
レモネードの原則
予期しない出来事や失敗を前向きに捉え、新たな価値創出につなげる考え方です。この原則の名前は、「レモンを手に入れたなら、レモネードを作れ」というデール・カーネギー氏の言葉に由来しています。
ビジネスにおいて、計画通りに進まない事態や想定外のトラブルは避けられません。レモネードの原則では、そうした出来事を単なる失敗と捉えるのではなく、工夫や発想の転換によって新たな価値を生み出す材料と考えます。たとえ欠陥のある製品や想定外の結果であっても、視点を変えることで新しい用途やビジネスチャンスが見えてくることもあるためです。
つまり、予期せぬ出来事や失敗をビジネス上の「レモン」と捉え、それを価値ある「レモネード」へと変えていく姿勢がこの原則の本質です。
飛行機のパイロットの原則
飛行機のパイロットの原則とは、未来は予測して待つものではなく、自らの行動によって形作るものだと捉える考え方です。外部環境の変化や運に左右される要素よりも、自分自身がコントロールできる行動に意識を向けることを重視します。
パイロットが自ら操縦桿を握って飛行機を導くように、主体的に意思決定し行動することで、結果として望ましい未来に近づいていくというのがこの原則の考え方です。
エフェクチュエーションの成功事例:柿の種

出典:浪花屋製菓
柿の種は、日本を代表する米菓として広く親しまれていますが、その誕生の背景にはエフェクチュエーションの考え方が見られます。この商品は、あらかじめ綿密な商品計画に基づいて生まれたものではありません。誕生のきっかけとなったのは、製造工程で起きた偶然の失敗でした。
柿の種を生み出した新潟の老舗米菓メーカー「浪花屋製菓」では、創業者があられを作るための小判型の金型を誤って踏みつぶしてしまう出来事がありました。しかし、その壊れた金型を廃棄せずに活用したことで、柿の種が生まれたのです。
この事例は、手元にある資源を起点に行動する「手中の鳥の原則」や、予期せぬ出来事を新たな価値へ転換する「レモネードの原則」を体現した成功例と言えるでしょう。
このように、今日広く支持されている商品やサービスの中には、エフェクチュエーション的な発想から生まれたものが数多く存在しています。
参考:日本経済新聞「金型踏んづけて柿の種、試行錯誤の柿チョコ 誕生秘話」
今こそ取り入れたいエフェクチュエーション
エフェクチュエーションは、不確実性の高い環境において、成果を上げてきた起業家の思考法を体系化したものです。今あるリソースを起点に行動することで、リスクを抑えながらイノベーションや新たなビジネスチャンスの創出を目指せます。不確実性が増す現代において、新規事業や商品開発の場面で取り入れてみてはいかがでしょうか。
