
市場が成熟し競争が激しくなるほど、既存の枠組みの中で事業を拡大することは難しくなります。そのような状況を打開するための戦略として注目されているのが、カテゴリーイノベーションです。本記事ではカテゴリーイノベーションの意味や注目される背景、実現によって得られるメリット、国内外の成功事例を紹介します。
カテゴリーイノベーションとは
カテゴリーイノベーションとは、新しいカテゴリーを生み出し、自社ブランドで同カテゴリーの地位を確立する戦略です。この手法は、2011年にデービッド・A・アーカー氏が著書「カテゴリー・イノベーション ブランド・レレバンスで戦わずして勝つ」で提唱されました。
最終目的はブランド・レレバンスの確立
ブランド・レレバンスとは、自社が創出した新しいカテゴリーにおいて唯一無二の存在として認識される状態を指します。この状態に達すると、消費者がそのカテゴリーの商品を選ぼうとしたとき、自然に自社ブランドが有力な選択肢となります。つまり、競合と比較されたうえで選ばれるのではなく、戦わずして勝てる状況が生まれるのです。これこそが、カテゴリーイノベーションで目指す最終的なゴールです。
さらに、ブランド・レレバンスが確立されると、カテゴリー名から自社ブランドが第一想起されるようになります。第一想起とは、ある商品カテゴリーを思い浮かべたときに、最初に頭に浮かぶブランドのことです。
例えば、「ハンバーガーが食べたい」と思ったとき、真っ先に「マクドナルド」を思い浮かべる人は多いでしょう。これは、マクドナルドがハンバーガーカテゴリーで絶対的な地位を築いているためです。
自社が創った新カテゴリーで同じ状態を実現できれば、圧倒的な優位性を獲得できます。カテゴリーイノベーションは、第一想起の座を意図的につくり出すための戦略とも言えます。
カテゴリーイノベーションが注目される背景

カテゴリーイノベーションが注目を集めているのは、ビジネス環境が大きく変化し、企業が生き残るために新たな成長エンジンを見つける必要性が高まっているためです。ここでは、2つの背景について解説します。
市場の成熟による差別化の限界
現代は商品やサービスが溢れ、多くの市場が成熟しています。市場が成熟すると、企業は次のような課題に直面しやすくなります。
・商品やサービスを改良しても、すぐに模倣される
・他社との差別化が難しい
・価格競争に巻き込まれ、利益率が下がる
つまり、市場が成熟するほど、既存カテゴリーの中だけで持続的な成長を実現するのは困難です。この限界を突破する方法として、カテゴリーイノベーションが注目されています。
新たなビジネスチャンスの創出
既存市場で競合とシェアを奪い合うより、自ら新しい市場をつくり出したほうが成長の余地が大きいという点も、カテゴリーイノベーションが注目される背景の一つです。ブランド・レレバンスを確立できれば、企業にとって新たなビジネスチャンスとなります。こうしたビジネスチャンスを創出できる可能性があるからこそ、多くの企業がカテゴリーイノベーションに期待を寄せています。
カテゴリーイノベーションによるメリット

カテゴリーイノベーションを実現することで、企業には4つのメリットがあります。ここでは、国内外の企業事例を交えながら、それぞれのメリットをわかりやすく解説します。
メリット① 市場優位性の確保
カテゴリーイノベーションのメリットは、自社が新たな市場をつくり出すことで、市場優位性を獲得できる点です。
既存市場では、すでに数多くの商品やサービスが販売されているため、第一想起のポジションを獲得するのは容易ではありません。一方、新しいカテゴリーは競合と比較されにくく、第一想起のポジションを獲得できる可能性が高いです。
Dyson(ダイソン)は「吸引力の変わらない、ただひとつの掃除機」というキャッチコピーのもと、「紙パック不要で吸引力が持続する掃除機」という新たなカテゴリーを打ち立てました。その結果、掃除機市場において「高性能掃除機と言えばダイソン」というイメージを確立し、市場優位性の獲得に成功しています。
このように、カテゴリーイノベーションは競争を避けながら優位性を築くのに有効な戦略です。
メリット② 安定した収益構造の構築
カテゴリーイノベーションに成功すると、価格競争に巻き込まれにくくなり、安定した収益構造を築けるメリットがあります。
これは、第一想起のポジションを確立したブランドほど、価格ではなく「ブランドそのものの価値」で選ばれるケースが増えるためです。
AppleのiPhoneは高価格帯でありながら、根強く支持されています。スマートフォンという新たなカテゴリーを切り開き、その中心ブランドとして認知されているためです。その結果、価格比較の対象になりにくく、長年にわたり同社の経営を支えています。
このように、カテゴリーイノベーションは安定した収益構造の実現に貢献します。
メリット③ 成長余地を拡大
新たなカテゴリーを生み出すと、企業は成長余地を拡大できます。既存市場ではシェアの奪い合いになりがちですが、新しい市場を創出すれば、需要そのものを広げられるためです。
代表的な事例は株式会社伊藤園の「お〜いお茶」です。同商品の開発が始まったのは1975年ごろ。当時の飲料市場は甘いジュースが主流でした。
そこで同社は、健康志向の高まりを見据え「無糖緑茶飲料」に着目。10年以上にわたる開発の末、無糖緑茶飲料という新たなカテゴリーをつくり出しました。発売後は狙いどおり健康志向の消費者に受け入れられ、需要を大きく伸ばしていきました。
1989年の発売から2024年12月末までに累計450億本を販売し、現在では世界一の無糖緑茶飲料ブランドとして、40以上の国と地域で展開されるグローバルブランドへと成長しています。
このように、新しいカテゴリーを生み出すことは、企業の持続的な成長の原動力となります。
参考:伊藤園株式会社「海外のトレンドから着想を得た新ジャンルの日本茶「お~いお茶 PURE GREEN」「同 LEMON GREEN」を、3月17日(月)に新発売」
メリット④ 採用力の強化
カテゴリーイノベーションは、採用力の強化にもつながります。新たな市場の第一人者として認知されることで企業の魅力が増し、「成長分野で働きたい」と考える人材を惹きつけるためです。
代表的な事例がTesla(テスラ)です。同社は「EV(電気自動車)」と「ソフトウェア」を組み合わせた新しい自動車「SDV」の分野を牽引し、世界的メーカーへと急成長しました。その結果、「未来のモビリティをリードする企業で働きたい」と考えるエンジニアやクリエイターが増え、働きたい企業ランキングの常連になっています。
このように、カテゴリーイノベーションは企業の魅力を高め、優秀な人材の採用に貢献します。
※SDVの詳細については、「SDVとは?」の記事をご参照ください。
参考:BUSINESS INSIDER「工学系専攻の学生が働きたい企業トップ15 [2024年版]」
4.0 カテゴリーイノベーションで成長を加速
カテゴリーイノベーションとは、新しいカテゴリーをつくり、その分野で第一人者としてブランドを確立する戦略です。市場が成熟し差別化が難しくなる中、注目されている成長戦略の一つです。市場優位性の獲得、安定した収益構造の構築、成長余地の拡大に加えて、採用力の強化といった多くのメリットを得られます。
国内外の大手企業の成功例が示すように、カテゴリーイノベーションは企業の成長を強力に後押しします。新商品の開発や新市場の創出を検討している担当者様は、その可能性を探ってみてはいかがでしょうか。

