マイクロトリップの活況

インバウンドとは、外国からの観光客が日本で消費活動することを指す観光用語です。コロナ禍において、インバウンド産業の需要は衰退しました。そこで、新しい旅行の形である「マイクロトリップ」が話題になっています。 

私たちは、この活況についてどのように考えていくことができるでしょうか。 

消滅したインバウンドは実際どのくらいの影響?

実際に、インバウンド産業はコロナ禍においてどのくらい消滅したでしょうか。日本政府観光局の発表統計から見てみると、その影響の大きさが理解できます。2019年の訪日外国人数は一か月に約250-300万人ほどを記録していますが、2020年の2月にはその半分である約100万人に減り、翌月3月にはさらに1/5の20万人に減少しています。その後は2000-3000人程度の極めて少人数が日本を訪れています。また、8月ごろからは1万人近くが訪日しており、その後も僅かに上昇傾向にありますが、訪日外国人の総数が急激に減っていることには間違いありません。このように、インバウンド産業の市場はほとんど消滅してしまいました。 

このような観光産業の衰退の現状に対して政府が発表した対策が、GoToキャンペーンです。 

GoToキャンペーンとGoToEatの規模と期間 

GoToキャンペーンとは、コロナ禍の緊急経済対策として日本政府により打ち出された対策です。具体的には、「Go To Travel キャンペーン」・「Go To Eat キャンペーン」、その他にも「Go To Event キャンペーン」や「Go To 商店街 キャンペーン」などといった取り組みを総称したものです。大きな打撃を受けた観光産業に対する救済政策ということです。 

このキャンペーンによって、利用者は旅行に関する経済援助を受けることができます。 

「Go To Travel キャンペーン」 

旅行代金の援助を受けることができます。 

例えば、あなたが日帰り旅行に行って3万円の旅費がかかる場合は、最大で1万円の補助を受けることができます。宿代などの割引が7千円、買い物などに使うことができる地域共通クーポンが3千円といった内訳です。 

加えて、宿泊日数によって上限金額が異なります。1泊の旅行であれば最大2万円の補助、2泊の旅行であれば最大4万円の補助、3泊の旅行であれば最大6万円の補助といった風に、連泊をすると上限も比例して増えていく仕組みになっています。 

このように、政府からの旅費補助によってより安価に旅行を楽しめるキャンペーンです。 

期間は2020年7月22日から2021年2月1日までとなっています。 

「Go To Eat キャンペーン」 

こちらのキャンペーンでは、飲食店での食事料金の補助を受けることができます。 

旅費の補助に加えて食事券をあわせることで、インバウンド産業と同じく厳しい状況にある飲食業の需要を高め、また食材を供給する農林漁業も応援していくことを目的としたキャンペーンです。 

例えば、昼食を食べるときに対象となっている店をオンラインで予約をすることで、次回以降に使える500円分のポイントがもらえます。また、夕食時には千円分のポイントがもらえます。 

このように、飲食店での食事においても補助をもらえるキャンペーンです。 

期間は2020年10月から2021年3月31日までとなっています。 

これらのキャンペーンは、国民からの認知率は9割とされています。皆さんも聞いたことがあるでしょう。また、利用率は20%です。5人に1人はGoToキャンペーンを利用したことがあるということです。 

マイクロトリップの定義

インバウンド産業の後退やGoToキャンペーンの登場に加え、新しい旅行の形態「マイクロトリップ」が提唱されています。 

マイクロトリップとは、自宅から短時間で到着できる近場への旅行を指す言葉です。 

例えば、渋谷区に住んでいる人が徒歩でその隣の港区へ旅行することや、横浜市に住んでいる人が50分かけて鎌倉へ旅行しに行くなどの手軽な移動のことです。東京から京都や沖縄などの遠い場所へ旅行するのでなく、近場で旅行する「マイクロトリップ」がコロナ禍においてトレンドになっています。 

マイクロトリップが流行った理由としては、その利便性にあります。 

ずっと家にいるだけでなく何か別の空間に行って気晴らしをしたい気持ちと、反対にコロナ禍であまり外出をしたくないといった事情がある人は多かったでしょう。そういう場合に、少し遠くまで散歩や買い物をしたりすることで旅行で得られるような新鮮な気持ちを体験できることに気づいた人が多かったのです。このように、旅行をしたいといった需要と感染対策が必要なことのあいだから、手軽で便利に旅行気分が味わえる新しい形態「マイクロトリップ」が話題になったと考えられます。 

この便利な旅行の形は、遠くでなく身近な価値の発見に焦点を置くものです。普段であれば価値を感じなかったり、もしかすると存在すら感じずに通り過ぎるような小さな店も、旅行気分で見てみると違った魅力を発見できることがあります。例えば、あなたは隣街へ30分かけて徒歩でマイクロトリップをしてみたとします。そこにはコロナ禍以前には毎朝目の前を通っていた店がありますが、じっくり眺めてみたことはなかったため、初めてその魅力に惹かれることがあると思います。そうした、普段気付かなかった身近な場所の魅力を発見することが、マイクロトリップの持つ価値だと考えられます。 

このように、コロナ禍において新しく話題になっている「マイクロトリップ」は、利便性と身近な価値の発見を持ち合わせた新しい旅行の形態だと考えられます。 

マイクロトリップでどのような変化がおこっているか 

新しい旅行の形が流行する中で、それに対する産業の態度にも変化があります。それは、旅行の価値が観光地自体の魅力ではなく、再発見に置かれ始めた点から考えることができます。 

もし、あなたが海沿いの隣街へ旅行した際に、その地域で海の良さを全面的に押し出すプロジェクトをしていたら、辟易するかもしれません。ずっと暮らしている中でよく隣街にある海には訪れていたからです。海の魅力についてはもう存分に熟知しているということです。これでは、プロジェクトとしてわざわざ打ち出す意味は薄いでしょう。 

このこととは反対に、小さな雑貨店や目立たない場所にある飲食店を興隆させるプロジェクトを推進してみた場合はどうでしょうか。近所にずっと住んでいる人でも気づかなかったような隠れた魅力を発信することで、よりその街に新しい魅力を感じることができるでしょう。また、その街が持っている歴史などにも結び付けて売り出していくことで、新たな側面に魅力を感じる人々も増えると考えられます。このように、新鮮に感じられる価値が求められており、その切り口を提供する姿勢が必要になると考えられます。 

また、3密を避けるためにも、大衆受けするような観光地的価値ではなく、個人のお気に入りになるようなローカルでコアな価値が求められると言えます。例えば、誰でも知っているような海沿いのレストランは人が多くコロナ禍では避けたいですが、少し裏路地に入った場所にある落ち着いた雰囲気のお気に入りのカフェには、新鮮さを感じられることもあり行きたいと思うでしょう。人気の場所に人を集めるのでなく、コアな場所へ人を分散させることへの流れがコロナ禍においての変化です。このように、人が集まるようなものでなく、人がそれぞれ気に入るようなコアな価値が重視されるようになっています。 

インバウンドを埋める消費勢力になりえるのか

Withコロナにおけるマイクロトリップの流れは、衰退したインバウンド産業に取って代わられるものであり、観光産業が注力すべき取り組みだと考えられます。なぜなら、従来の観光形態の需要が戻るまでには少なくとも1年はかかると見込まれており、さらにその確証もないからです。もしもあなたがコロナ禍以前には旅行が好きでよく観光地を訪れていたとしても、コロナの影響で行く機会が減ったとしたら、また元の習慣を取り戻すには時間がかかるかもしれません。また、もしかすると旅行自体への興味も薄れていく可能性もあります。コロナ期の旅行産業の衰退によって旅行自体のハードルが上がるということです。このように、コロナ禍以前の旅行形態の需要についてはその可塑性も考慮に入れると非常に不安定であり、元に戻ることを視野に入れることが難しい状況だと考えられます。 

一方で、マイクロトリップの需要を考えると、利点が多いと見受けられます。自粛や感染予防を深く配慮しなくとも精神的なリフレッシュが望まれる点はアフターコロナにおいても大きなメリットです。 

また、地域の新しい魅力を提示する機会にもなります。コロナ禍のマイクロトリップの流れを受けて発見された新鮮な魅力は、従来の観光形態が可能になった社会においても需要を残し続ける可能性があります。あなたがマイクロトリップによって見つけた近隣の雰囲気のいい雑貨店は、コロナ禍が終わって遠出の旅行が可能になってもあなたを魅了し続ける可能性が高いと思われます。このように、地域の新たな発見を通して消費を長期化できる点においても、マイクロトリップは観光産業にとって重視すべきだということです。 

マイクロトリップをする消費者層に訴求しやすい価値とは

消費者から見たマイクロトリップの価値とは、感染リスクが下げられる利便性がある点、地域の隠れた魅力を再発見できる点にあります。それは言い換えると、地域との関係がより密接になることだと言えます。 

例えば、自分が住んでいる地域に全く興味を持っていなかった人も、マイクロトリップによって地域を旅するあいだに、もっと深く知ることになります。その土地の歴史や生産品、文化や伝統といったことに詳しくなる機会が増えるためです。そうした地域との関わりを通して、消費者は新しい価値観を作り上げていくことになります。このように、マイクロトリップは地域との繋がりが密接になることであり、その結果として地域単位での経済活動を増やす役割を果たすと考えられます。 

このことを踏まえると、地域に目を向けた価値の需要がますます増えていく可能性が高いと言えるでしょう。