現代人はアルコールを飲まない?ロー&ノンアルコールが描くヘルシーなチル文化

ノンアルコール チル文化

みなさん、お酒は好きですか?ここ数年、ノンアルコール市場の伸びが顕著といわれています。どうやら現代人はアルコールを飲まなくなってきているようなのです。

お酒というものはあくまで個々人の趣向ですので、飲む人にとってはまったく身に覚えのない事象かもしれませんが、今回は市場の動きからみえてきたアルコール市場の今を見てみましょう。

現代人はアルコールを飲まなくなっている

減少の一途にあるアルコール消費量

グラフ あなたはお酒をどのくらいの頻度で飲みますか

株式会社バザールが2016年と2019年に実施した調査を元にしたレポートによると、日本では4人に1人がお酒を「まったく飲まない」と回答しています。

アルコールを飲まなくなっているのは若者

では、飲まなくなっているのは誰でしょう?

同調査によると、年代別の調査では若者ほどお酒を飲まない傾向にあることが示されています。20代がもっとも多く、全体の29%が「まったく飲まない」と回答しています。また、「毎日飲む」回答をしている割合も20代がもっとも低い結果となっています。

グラフ あなたはお酒をどのくらいの頻度で飲みますか(年齢別)

また、イギリスでは24歳以下でお酒を飲まない層は、2005年から2018年の間に19%から22.8%に増加しました。25~44歳では、ノンアルコール愛好者は2005年から2017年の12年のあいだに15.5%から20.6%にまで伸びているというデータもあります。一方、65歳以上の場合は例外でアルコールを飲まない層が2005年は29.4%に対し、2017年には24.2%に減っています。

つまり、アルコールを飲まない層・ノンアルコールを選ぶ傾向は20~40代の比較的若い世代において見られる傾向であると考えられます。

それでは、ここからはアルコール0%および0.5~3.5%のものを「ロー&ノンアルコール」と称して、それらを選択する人々の心理や市場の伸び、そして実際にどのようなブランドや酒場がキーとなっているのか見ていきましょう。

ロー&ノンアルコールを飲む若者の心理

アルコールを飲まない10の理由

アルコールを飲まない10の理由 イラスト

アルコール中毒・薬物中毒からのリハビリテーションを支援する米団体・Mountainsideによると、アルコールを断つ理由・飲まない選択をする理由に以下のような理由を挙げています。

  • 太りやすくなる
  • 記憶力や学習能力の妨げになる
  • 薬のように中毒になりかねない
  • ガンのリスクを促進させる
  • 肝臓を患ったり、そのほか慢性的な病を誘発する
  • 感情的になったり、過去のトラウマを思い起こさせる
  • 依存症になってしまう
  • 憂鬱になったり不安を増幅させる
  • 老ける
  • 通常の睡眠サイクルを妨げる

ロー&ノンアルコールを選ぶ理由やきっかけは生活苦?それとも…

繰り返しますが、「若者がアルコールを飲まない」傾向は日本でも語られています。しかし日本においてその因果関係として引き合いに出されるものに、「日本経済のデフレに伴う若者の所得減、生活苦」というストーリーが語られることが間々あります。

もし仮に日本においては事実だとしても、経済状況の異なる国でもこのストーリーは当てはまるのでしょうか?

もちろん節約をアルコールを飲まない理由に挙げることは可能です。ではその場合、昨今のロー&ノンアルコール市場の急速な伸びはどのように説明付けることができるでしょうか?

ロー&ノンアルコールを飲む理由は生活苦と別にあると考えるほうが自然です。ともすると「アルコールを飲む10のデメリット」とも言い換えられる前述の10の理由にその理由があるのかもしれません。

どうやらアルコール消費量の減少、そしてロー&ノンアルコール消費量の増加の背景にあるのは、西欧を中心にした根強い「健康志向」が見え隠れしているようなのです。

(余談ですが、ロー&ノンアルコールを選択する理由のなかには「酔っ払った醜態をインスタグラムで晒される心配をしたくないから」というデジタルネイティブの若者らしい理由も。)

ヨーロッパで高まる健康志向なライフスタイルからの支持

ますますの伸びが期待されるロー&ノンアルコール市場

Euromonitorのレポートによると、直近5年間のうち西欧でのロー&ノンアルコールの売り上げは約18%増加したとされており、パリやアムステルダムのスーパーマーケットではすでに専用の売り場を設けています。

イギリスでもOcadaやTescoといった大手スーパーマーケットではオンラインで常時約20種類近くを販売しています。

イギリス 大手スーパーマーケットTesco オンラインショップ ロー&ノンアルコール

同市場は、2022年までにイギリスを中心にさらに12%増加するとされています。そのため大手飲料メーカーもこぞってこの市場に注目しており、たとえばAB InBevは2017年に全体売り上げ8%のロー&ノンアルコール商品の売り上げを2025年までに20%まで引き上げるという発表を行っているほどなのです。

注目のロー&ノンアルコール飲料D2Cブランド

この人気を後押しするように、現在まで数多のブランドがローンチしています。

ロー&ノンアルコールを選択する理由に「健康志向」が挙がることから、デザインやストーリーを含めて総合的に各ブランド高いブランディング力を誇り、それぞれ根強い支持を得ています。

Seed Lip

https://seedlipdrinks.com/

2015年、ロンドンの高級百貨店セルフリッジでの初販売で3週間で1,000本完売したSeed Lip。現在は、サヴォイホテルといった五つ星ホテルや著名なバー、セレクトショップなど幅広く取り扱いされています。

O.Vine

O.Vine ウェブサイト
http://winewater.com/

限りなくワインのような水(もちろんノンアルコール)を製造販売するO.Vine。もともとイスラエル最大のワイナリーでもあるGolan Heights Wineryの代表自らが2016年にローンチしました。2018年にはエビアン主催のGlobal Bottled Water Awardsにて新商品コンセプト最優秀賞にも輝き、ますます世界中から注目されています。

Curious Elixirs

Curious Elixirs ウェブサイト
https://curiouselixirs.com/

創業者のジョンとアシュリーの2人が始めた、大酒飲みにならずともドリンクタイムを楽しむことができるクラフトカクテルCurious Elixirs。創業者のアシュリーが30歳になったときに肥満のあまりお酒を制限せざるを得なかった……というリアルな当事者っぷりに説得力を感じずにはいられませんが、ノンアルコールとカクテルならではの複雑な香りの両立はたしかな支持を集めています。

アルコール消費量が減っても消えない「飲む場所」の役割

D2Cのロー&ノンアルコールブランドの隆盛もさることながら、この波はアルコールを提供していた「場所」にも変化をもたらしています。

注目例として挙げられるのが、イギリス・アイルランドの首都ダブリンにあるパブ「The Virgin Mary」。ノンアルコールのみを提供するパブとして今年5月にオープンしました。
「まったくお酒を飲まない友人がいて、彼らは朝方まで飲める場所がないってことに気づいたんだ」「ノンアルコールであれば存分に酒場を楽しんだあとで、安心して運転して帰ることができるでしょう」と語る創業者。

健康とマナーそして何より「場を楽しむ」ことのいいとこ取りをし、現代のニーズにうまく則した例ですね。

イギリス・アイルランドの首都ダブリン ノンアルコールのみのパブ「The Virgin Mary」
https://thevirginmarybar.com/
Google map:https://goo.gl/maps/8MR9XuMyfyCDVEMv5

既存の酒場でアルコールを飲まないという選択が市民権を得た昨今。一見矛盾しているように聞こえるかもしれませんが、場を楽しむことを最優先に考えると、時代に適合した合理的な流れと言えるのかもしれませんね。

心と身体の健康を兼ねたロー&ノンアルコール。これからますます多様な形でわたしたちのライフスタイルに浸透してくることは間違えない、と言えそうです。

参考文献

4人に1人が「まったく飲まない」。日本人のアルコール離れは進んでいる? 若い世代は特に顕著に
http://wine-bzr.com/topic/report/11831/

日本人はビール好き! 83.9%が月に1回以上飲んでいる ~女性、若年層には「サワー/チューハイ」、シニアには「ビール」が人気~
http://wine-bzr.com/topic/report/11848/

The boom of alcohol-free is a sticking trend
https://www.morningadvertiser.co.uk/Article/2019/05/20/How-much-has-the-no-alcohol-category-grown

「若者の酒離れ」、本当の理由とは?
https://dot.asahi.com/wa/2018092000009.html

飲酒運転に関する意識調査 2018 – タニタ TANITA
http://www.tanita.co.jp/cms/press/pdf/2018/alcohol_research.pdf

Brewers acquire a taste for non-alcoholic beer
https://www.ft.com/content/639d6864-5ac9-11e9-9dde-7aedca0a081a

Global status report on alcohol and health 2018
https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/274603/9789241565639-eng.pdf?ua=1

Are non-alcoholic beers ready to challenge the real thing?
https://www.ft.com/video/8d281d43-f9b9-4f24-841e-136e8f20cabf

Adult drinking habits in Great Britain: 2017
https://www.ons.gov.uk/peoplepopulationandcommunity/healthandsocialcare/drugusealcoholandsmoking/bulletins/opinionsandlifestylesurveyadultdrinkinghabitsingreatbritain/2017

How drinking habits are changing worldwide
https://www.ft.com/content/ff7e27b0-baa9-11e9-96bd-8e884d3ea203

10 Reasons Not to Drink Alcohol
https://mountainside.com/blog/alcohol/10-reasons-not-to-drink-alcohol

Dublin’s first alcohol-free bar a sign of changing social mores
https://www.ft.com/content/566f3c3a-72ed-11e9-bbfb-5c68069fbd15

The Virgin Mary: Man behind Dublin’s new alcohol-free bar explains the concept
https://www.irishtimes.com/life-and-style/food-and-drink/the-virgin-mary-man-behind-dublin-s-new-alcohol-free-bar-explains-the-concept-1.3761451

Diageo buys majority stake in non-alcoholic spirit brand Seedlip
https://www.ft.com/content/d656c2ac-b90a-11e9-8a88-aa6628ac896c

Why We Cut Back on Drinking
https://curiouselixirs.com/blogs/curious-elixirs-blog/why-we-cut-back-on-drinking