山形大学大学院理工学研究科の古川英光教授らは、3Dフードプリンター技術を用いた「寿司」の造形に成功し、宇宙船への搭載を目指して更なる開発を進めています。同技術は、新たなビジネスの創出や食品ロスの削減につながると期待されています。本記事では新規事業のアイデアの参考となるように、3Dフードプリンターの概要や現状、メリット・デメリットについて紹介します。
参考:日刊工業新聞「山形大学、3Dプリンターで“すし” 宇宙船搭載へ小型化図る」
Contents
3Dフードプリンターとは
3Dフードプリンターとは、立体的な食べ物を造形する機械のことです。一般的に3Dプリンターと言えば、樹脂や金属素材を使用して立体的な造形物を作る機械を指します。一方、3Dフードプリンターは食材から作られたインクを機械のノズルから射出して積み重ねることで、立体的な食べ物を造形します。
開発のきっかけは宇宙食
3Dフードプリンターが開発されたきっかけは、2013年に米国航空宇宙局(NASA)が宇宙食開発のために、巨額の助成金を出したことと言われています。NASAが開発に乗り出した理由は、インクに粉状の食材を利用することで、食料の携帯性や保存性が高まるためです。2019年には、国際宇宙ステーションに滞在中のロシア人宇宙飛行士によって、3Dフードプリンターでステーキ肉の造形が行われました。
3Dフードプリンターの用途
3Dフードプリンターは宇宙食以外に、以下の分野においても活躍が期待されています。
- 介護食
介護食は、高齢者の健康状態に合わせて、硬さや大きさなどを一人ひとりに合わせる必要があります。3Dフードプリンターは、そのような個々の健康状態に合わせた食べ物の造形が可能です。これにより、栄養士や調理スタッフの手間が減るため、人件費の削減にもつながります。
- 代替肉
代替肉は、その名のとおり肉の代わりとなる肉のことです。3Dフードプリンターは、味や栄養価を自由に調整できるため、代替肉の造形もできます。
- お菓子
3Dフードプリンターは、これまでに見たこともない形の食べ物を出力することも可能です。そのため、味だけではなく見た目にも面白いお菓子を造形できます。
3Dフードプリンターの現状
3Dフードプリンターで食べ物を様々な形にできると聞くと、ありとあらゆる食べ物を再現できると思うかもしれません。しかし、現状では作ることが困難な食べ物もあります。なぜなら、柔らかい食材の制御が難しいためです。また、3Dフードプリンターで食べ物を造形するのは、一般的な方法で調理するよりもコストがかかります。これらの背景から、同技術は実用化に向けて研究が進められている段階です。
3Dフードプリンターのメリット
3Dフードプリンターがビジネスとして期待される背景は、複数のメリットがあるためです。ここでは、3Dフードプリンターの4つのメリットについて紹介します。
メリット① 食感と形状の自由度が高い
3Dフードプリンターのメリットは、食感と形状を自由に設定できることです。このメリットを活用することで、高齢者が食べやすい硬さに調整したり、一般的な調理では不可能な独創的な形状の食べ物を造形したりできます。他にも、代替肉をより本物の食肉の質感に近づけられると期待されています。
メリット② 栄養価の調節が可能
3Dフードプリンターのメリットは、食材を変更することにより栄養価を調整できることです。このメリットを活用することで、患者や高齢者一人ひとりに合わせた療養食や介護食の提供ができます。また、個々に栄養価を調整するのは非常に手間がかかる作業のため、作業の効率化や調理者の負担軽減につながります。
メリット③ 再現性が高い
3Dフードプリンターのメリットは、再現性が高いことです。機械のため、材料とレシピがあれば、同じ食べ物を作れるためです。一般的な料理では、食材の大きさや食感、味付けなどで誤差が出ます。しかし、3Dフードプリンターを活用することで、品質を均一化できます。
メリット④ 食品ロスの削減
3Dフードプリンターのメリットは、食品ロスの削減に貢献することです。なぜなら、3Dフードプリンターで使用する食材は、粉状やペースト状の状態で保管できるためです。例えば、見た目が悪くて廃棄される食材や野菜のくずなどのように、廃棄する食材を粉状やペースト状にすることで、食品ロスの削減につながります。
3Dフードプリンターのデメリット
3Dフードプリンターはメリットばかりではなく、デメリットもあるため注意が必要です。3Dフードプリンター事業に取り組む前に、デメリットについても押さえておきましょう。
デメリット① コストがかかる
3Dフードプリンターのデメリットは、コストがかかることです。なぜなら、まだ研究段階の技術のため、本体や付属の部品の価格が高くなりやすいためです。また、専門的な知識を持つ人材の確保のために、人件費が発生することも考えられます。このようなコストの増加は、製品・サービスの価格の高騰につながります。
デメリット② 使用できる食材が限られている
3Dフードプリンターのデメリットは、使用できる食材が限られていることです。3Dフードプリンターで使用できる食材は、その仕組みから、粉状又はペースト状の材料です。そのため、食材によっては使用できない可能性があります。
デメリット③ 柔らかい食材の制御が難しい
3Dフードプリンターのデメリットは、柔らかい食材の制御が難しいことです。一般的な3Dプリンターであれば、素材を冷やすことで固まります。しかし、3Dフードプリンターの場合は、樹脂や金属素材のように固められません。そのため、柔らかすぎて形が崩れたり、反対に固くしすぎると狙った食感を実現できなかったりする可能性があります。
3Dフードプリンターの活用事例2選
3Dフードプリンターは、研究段階の技術であるものの、すでにサービスとして展開している企業もあります。そこで、この章では、3Dフードプリンターの活用事例2選を紹介します。
サイバー和菓子:OPEN MEALS
出典:OPEN MEALS
OPEN MEALSは、「あらゆる『食』をデジタル化し、食に革命を起こす。」をテーマに活動している団体です。同団体では、食の未来予測を公開しており、その予測に関連した「食のデータ転送」や「食の再現」などのプロジェクトを実施してきました。そして、第7弾のプロジェクトが「サイバー和菓子」です。サイバー和菓子は、気象データの風速・気圧・気温をもとに、日々出力される形や色が変わる和菓子です。この独創的な形の和菓子は、3Dフードプリンターによって造形されています。
チョコレート3Dプリントサービス:id.arts
出典:id.arts「チョコレート3Dプリントサービス」
id.arts(アイディーアーツ株式会社)では、チョコレート専用3Dフードプリンターを活用して、立体的なチョコレート作品を造形する「チョコレート3Dプリントサービス」を展開しています。3Dモデリング代行サービスも行っているため、3Dデータを準備できない方でも利用できるのがポイントです。このように、チョコレート専用と素材が限定されるものの、すでに3Dフードプリンターを活用してサービスを展開している企業もあります。
3Dフードプリンターで新規事業を検討しよう
3Dフードプリンターは、食感や形状の自由度の高い食べ物を造形できる機械です。宇宙食や介護食、代替肉、お菓子などの分野での活用が期待されています。新規事業のアイデアを探している経営者様は、3Dフードプリンター関連で事業を検討してみてはいかがでしょうか。