2024年10月28日に実施された衆議院選挙において、103万円の壁の引き上げを公約に掲げた国民民主党が7議席から28議席へ躍進しました。これにより、103万円の壁に注目が集まっています。
しかし、ビジネスパーソンの中には「103万円の壁って何?」と思っている方もいるでしょう。そこで本記事では、今さら意味を聞けないという方のために、103万円の壁の基礎知識や引き上げられた際のメリット・デメリットをわかりやすく解説します。
Contents
103万円の壁とは
103万円の壁とは、所得税が発生するかどうかの年収のボーダーラインのことです。基礎控除48万円+給与所得控除54万円の合計103万円が控除されるため、年収が103万円以下の場合は所得税がかかりません。
103万円の壁があることで、アルバイトやパートが年収103万円を超えないように、労働時間などを調整する「働き控え」が問題となっています。例えば、11月や12月のシフトを減らすといった具合です。これにより、企業では人員を確保できないなどの問題が発生します。
年収103万円を超えるとどうなる
そもそも、アルバイトやパートが年収103万円を超えないようにするのは、超えると以下の不利益があるためです。
- 所得税が発生する
- 住民税の負担が増える
- 税制上の扶養から外れる
- 扶養者の扶養手当がなくなる
各項目について紹介します。
所得税が発生する
先に紹介したように、年収が103万円を超えると所得税が発生します。ただし、所得税は103万円を超えた金額に税率をかけた額が課されるため、年収が増えたのに手取りが減るという逆転現象は起こりません。
住民税の負担が増える
年収が93万円~100万円(自治体により異なる)を超えると住民税が発生します。住民税の計算式は以下のとおりです。
住民税=所得割額+均等割額+森林環境税
所得割額は所得に応じて課税される税金です。そのため、住民税は年収が増えるほどに負担も増えます。
税制上の扶養から外れる
扶養に入っている方は、年収が103万円を超えると扶養から外れます。そして、その影響を受けるのは扶養者です。扶養から外れることで控除額が減り、扶養者の住民税と所得税が増えます。ただし、配偶者特別控除については年収150万円がボーダーラインです。
扶養者の扶養手当がなくなる
被扶養者が年収103万円を超えると、扶養者が扶養手当を支給されなくなる可能性があります。なぜなら、扶養手当には被扶養者の年収に上限があり、多くの企業が103万円を上限にしているためです。
年収の壁の種類
103万円の壁のように、年収の額により税金や社会保険料の支払いが必要になるボーダーラインのことを年収の壁と呼びます。年収の壁の種類と影響を以下の表にまとめました。
年収の壁の種類
年収の壁の種類 | 影響 | 逆転現象の可能性 |
100万円の壁 | 住民税が発生 | ない |
103万円の壁 | 所得税が発生 | ない |
106万円の壁 | 勤め先により健康保険・厚生年金保険の支払いが発生 | ある |
130万円の壁 | 国民年金・国民健康保険の支払いが発生 | ある |
150万円の壁 | 配偶者特別控除が段階的に減少 | ない |
201万円の壁 | 配偶者特別控除の対象ではなくなる | ない |
参考:厚生労働省「年収の壁について知ろう」
103万円の壁が注目される背景
冒頭でも紹介したように、国民民主党が衆議院選挙で躍進したことで、103万円の壁に関する政策に注目が集まっています。しかし、「なぜこれほど注目されるのか?」と不思議に思っている方もいるでしょう。そこで、この章では103万円の壁が注目される2つの背景を解説します。
働き控えによる悪影響
103万円の壁の問題点は、労働者が年収103万円を超えないように労働時間を減らす「働き控え」が発生することです。11月や12月になると、シフトに入れなくなるパートやアルバイトが増えます。このような理由で人員が不足すると、企業は普段通りの経済活動が難しくなります。そこで注目されているのが103万円の壁です。ボーダーラインが上がることで、働き控えが減ると期待されています。
最低賃金の上昇
2024年10月1日、全国の都道府県で最低賃金が引き上げられました。2024年の平均引き上げ額は51円で、過去最大規模になっています。最低賃金が上がると発生する問題は、103万円の壁がより近くなることです。
例えば、103万円の壁ができた1995年の最低賃金の全国平均は611円でした。611円であれば年収103万円以内で1カ月約140時間の労働が可能でした。しかし、現在の最低賃金の全国平均は1,055円です。この金額だと、1カ月約81時間しか働けません。
このように最低賃金が上昇する度に、103万円以内で働ける時間が短くなります。このような状況を改善できるとして、103万円の壁の見直しに注目が集まっています。
参考:NHK「最低賃金の引き上げ全国で進む 物価高の中 労働者と企業は」
103万円の壁の引き上げによる企業のメリット
働き控えをしていた労働者にとって、103万円の壁が引き上げられるメリットは収入を増やせることです。このような103万円の壁の引き上げによる恩恵は、企業にもあります。具体的なメリットは以下の2つです。
- 労働力を確保しやすくなる
- 消費の活性化が期待できる
ここでは、企業側のメリットを紹介します。
メリット① 労働力を確保しやすくなる
103万円の壁が引き上げられると、企業は労働力を確保しやすくなります。なぜなら、働き控えをしていたパートやアルバイトの労働時間を増やせるためです。11月や12月に人員を集めるのに苦労していた企業は、労働力を安定して確保できることで事業に集中しやすくなるでしょう。
メリット② 消費の活性化が期待できる
国民民主党は、103万円の壁を178万円に引き上げる案を推進しています。この案で見直されると、7.6兆円の減税になると試算されています。そして、国民民主党によると、減税や収入増により手取りが増えることで消費を活性化できるとのことです。つまり、103万円の壁の引き上げによる企業のメリットは、消費者が使えるお金が増えることで、消費が活性化され売上アップが期待できることです。
103万円の壁の引き上げによる企業のデメリット
103万円の壁の引き上げはメリットばかりではありません。7.6兆円の税収が減ることで、企業にもデメリットがあると考えられています。具体的には、税収減により公共サービスの質が低下する恐れがあることです。
実際に全国知事会は年収103万円の壁が見直されることで、地方自治体の収入源である住民税が4兆円減少することを発表しています。地方自治体を個別にみると、宮城県知事は県全体で約810億円の減収を試算しており、この減収により住民サービスが低下する懸念を示しています。
このような住民サービスや公共サービスの質の低下は、住民だけではなく、企業にとってもデメリットです。
103万円の壁を巡る政界の動向に注目しよう
103万円の壁の見直しは、労働者や企業、地方自治体などの様々な方面において重要なテーマです。この制度の見直しによって、経済にとっては働き控えの解消や消費の活性化といったメリットがある一方で、行政にとっては税収減となるため公共サービスの見直しを迫られることになります。今後の経済に大きな影響があると考えられるため、103万円の壁を巡る政界の動向に注目してみましょう。