マスからニッチへ~細分化するユーザーと「DEWKs」へのアプローチ~

このコラムでは、食に関する調査やマーケティングについて、セルウェル社独自の視点を交えながらシリーズでお伝えしていきます。
細分化するユーザーと子どもを持つ共働き世帯「DEWKs(Double Employed With Kidsの略)」の存在に焦点を当てて見ていきましょう。

マスだけの時代は終わった

これまでの食に対する調査は、ターゲットとなるユーザーを性別や年代で大まかに区分けし、市場を“マス”で捉えたものがほとんどでした。
しかし、ライフスタイルが多様化している現在、マスマーケティングだけでは到底ユーザーの実態に対応しきれません。

昔は「一家団欒」という言葉に象徴されるように、どこの家庭も家族そろって食事を共にしていましたが、今では核家族化や共働き世帯の増加によって、家族で食卓を囲む機会が格段に減ってきています。
こうしたライフスタイルの変化はこれからも進んでいくと考えられ、その多様化に応じて今後はよりユーザーを細分化して捉えることが必要になってくるのではないでしょうか。
そして、それぞれのユーザーのライフスタイルや意識・行動パターンをきちんと把握した上での調査やマーケティングが非常に重要だと我々は考えています。

細分化するユーザーの特徴とは?

ここからは、細分化するユーザーそれぞれのライフスタイル、食に対する意識や購買行動について詳しく見ていきましょう。

単身世帯

単身世帯のうち、特に注目したいのがシニア層の存在です。高齢化が進む日本では、男女共に団塊世代を中心とするシニア層の単身世帯が増加傾向にあります。
単身シニアは典型的な昭和の家庭で過ごしてきた人が多く、女性は専業主婦として調理習慣が身に付いており、反対に男性は家事への参加意欲が低い傾向にあります。また、高齢化に伴って健康志向が高い点も特徴的です。

食事スタイルは内食や中食(※)が中心で、余暇時間が多いことからほとんどの人が毎日買い物に出かけます。中には一人分の食事の用意は面倒だと感じる人も多く、食材を余らせがちになることから、総菜や弁当などを購入する傾向も高くなっています。

※中食(なかしょく)…家庭外で調理・加工された食品を持ち帰り、家庭内で食べる食事形態のこと。

夫婦二人世帯

最近では子どもを持たない夫婦も増えており、またシニア層においては子どもが独り立ちをしたことで夫婦二人に戻ったという世帯も多くあります。

特に注目すべきは、共働きで子どもを意識的に作らない夫婦、いわゆる「DINKs(Double Income No Kidsの略)」と呼ばれる存在です。彼らは生活の自由度が高く、積極的に家事に参加する男性が多いといわれています。
また、所得が高いことから選択肢の幅も広くなり、食への関心が最も高いユーザーの1つと言えるでしょう。食事そのものよりも、一緒に食べる人やシーンにこだわる人が多いようです。
余暇時間が少ないことから食材は週末にまとめ買いをする人がほとんどで、外食やコンビニ、スーパーマーケットでの総菜購入も多いと考えられています。

DINKsと同じ夫婦二人世帯でも、片方が専業主婦(主夫)の場合、食事のスタイルは内食中心となります。余暇時間が豊富なため毎日買い物に出かける人も多く、また節約志向が高いことから惣菜や弁当よりも食材を購入して調理する傾向にあるようです。

シニア層の夫婦二人世帯の場合は、子ども中心の生活から個人が中心の生活へとシフトしていき、子離れによって食への関心が戻る傾向にあります。健康志向も高く、夫婦二人で自由に食を楽しんでいる人が多いようです。
余暇時間や所得にも比較的余裕があるため、大規模な総合スーパーや百貨店などを利用する傾向も高くなっています。

夫婦+子ども世帯

夫婦+子ども世帯では、子どもが生活の中心となっている家庭がほとんどです。
特に片方が専業主婦(主夫)の場合、子どもの栄養面を考えて、内食での調理に対する意識がより高くなるようです。また、節約を理由にスーパーマーケットの特売やまとめ買いをする人が多く、価格コンシャスの傾向が強くなっています。

そして、子どもを持たないDINKsに対し、子どもを持つ共働き世帯は「DEWKs(Double Employed With Kidsの略)」と呼ばれています。
DEWKsの男性は男女平等の意識が強く、特に若い世代では積極的に家事を行い、休日や妻の不在時には趣味程度に料理する人も多いようです。女性の場合は家事と仕事を両立するため、合理的で効率の良い調理や家事を好む傾向にあります。

DINKsと同様に、DEWKsの人々も食への関心が比較的高い様子が見られます。
余暇時間が少ないため買い物は週末にまとめてする人がほとんどですが、男性は品質や産地にこだわった食材などを購入する人が多いようです。

このように、それぞれのユーザーによってライフスタイルは全く異なり、生活の中心が子どもなのか個人なのか、また所得によっても食への意識や関心、購買行動には大きな差が生まれます。
こうしたユーザーの実態やニーズを正確に把握し、今後はより具体的にターゲットを設定したニッチマーケティングが求められていくのではないでしょうか。

時短やインスタ映えがカギを握る「DEWKs」へのアプローチ

その提案の1つとして、今回は「DEWKs」の人々に焦点を当てたアプローチについて考えていきます。

まず、仕事と家事の両立を図るDEWKsの女性は合理性を求めるため、効率良く調理ができるレディミール(※)などの商品を好む傾向にあります。
また、休日に料理を楽しむDEWKsの男性にとっても、少し手間を加えるだけで調理ができる商品は魅力的に感じられることでしょう。

READY MEAL
※レディミール(READY MEAL)…チルドや冷凍保存され、電子レンジ等で加熱するだけの調理済み食品のこと。

現在、惣菜市場においてレディミールの存在は注目を集めており、コンビニやスーパーマーケットでも簡単に調理できる商品が増えているほか、2016年11月にはフランスの冷凍食品専門店「ピカール」が日本に初上陸したことも大きな話題となりました。

さらに、最近ではアプリを使って簡単にフードデリバリーが頼めるサービス「UberEATS(ウーバーイーツ)」も徐々に浸透し始めています。
UberEATSは世界100都市以上で展開しており、現在日本では東京都の一部地域のみの対応となっていますが、徐々にサービスエリアが拡張される見込みです。

こうしたレディミールやフードデリバリーのような時短サービスは、効率の良い調理を求めるDEWKsに受け入れられやすく、今後もその需要はさらに拡大していくと予想されます。
また、レディミールの利便性は時短という点だけではなく、1回分の食事が個包装になっているものが多いため、個食化が進む現代のライフスタイルにも適しています。

しかし、高級志向のDEWKsにとって、ただ「早い」「便利」というだけでは響きにくく、さらなる付加価値が求められることも忘れてはなりません。

例えば、DEWKsの人々は少し高くても便利で良質なものを好む傾向にあるため、コンビニ弁当のような簡素なものよりも、高級スーパーやおしゃれな惣菜店で販売されているような“インスタ映え”を意識したフォトジェニックな商品がより好まれると考えられます。

また、週末に買いだめをするDEWKsの家庭においては、週の後半を少ない食材で乗り切るためのレディミールや宅配商材なども重宝されるかもしれません。
さらに、最近では食物アレルギーを持つ子どもが増えているため、成分表示をきちんと明示するなど、アレルギー対策に特化した健康志向のレディミールなどもニーズがあるのではないでしょうか。

こうしたバリエーションの強化によって「時短+α」の価値をつくることが、DEWKsへのアプローチにとって重要なポイントだと考えられます。

市場の先を見据えた戦略を

今回は、細分化するユーザーと「DEWKs」の人々に焦点を当て、具体的なアプローチ方法についてお伝えしてきました。

ライフスタイルが多様化している現在、マスマーケティングの考え方から離れる必要があります。そして、よりターゲットを絞ったニッチマーケティングへの速やかな移行が求められていると我々は考えます。

そのためには、まずターゲットとなるユーザーを観察し、正確な実態と潜在意識まで把握することが、最も重要かつ根本的な課題となるでしょう。
決して一朝一夕でできることではありませんが、日々の活動の中で現場の声に耳を傾け、その変化を常に感じること、そして、市場の先を常に考えていくことがお客様に喜ばれる製品やサービスを生み出すことに繋がるのではないでしょうか。