マスからニッチへ~高齢者の買い物行動と宅配サービスの検討

このコラムでは、食に関する調査やマーケティングについて、セルウェル社独自の視点を交えながらシリーズでお伝えしていきます。

今回は、増加し続けるシニア世帯について考察します。

増える高齢者世帯&一人暮らし高齢者世帯

まず、市場概況を見てみましょう。
内閣府の調査によると、2014年時点で高齢者のいる世帯は全世帯の約半分となっています。家族構成としての内訳を見てみると、「単独世帯」&「夫婦のみ世帯」が全体の過半数となっています。

出典:平成29年度版高齢社会白書
出典:平成29年度版高齢社会白書

今後もしばらくこの傾向が続くことは容易に推測でき、アクティブシニアと呼ばれる高齢者人口は、5年後には頭打ちになるという予測も見られます。

特に65歳以上の一人暮らし高齢者の増加が男女ともに顕著であり、昭和55(1980)年には男性約19万人、女性約69万人、高齢者人口に占める割合は男性4.3%、女性11.2%であったが、平成22(2010)年には男性約139万人、女性約341万人、高齢者人口に占める割合は男性11.1%、女性20.3%となっています。

出典:平成29年度版高齢社会白書
出典:平成29年度版高齢社会白書

食を取り巻くシニア世代のユーザー特徴とは?

ここからは、生活の中で欠かすことができない「食シーン」を軸にシニア世代を考察します。
「食への関心」という軸と「調理意欲」という軸で見てみると、4つの分類で捉えることができます。

シニア世代のユーザー特徴
シニア世代のユーザー特徴

①従来型のプロ主婦層

*昔から専業主婦として家庭を守り、日常的に家族の健康や季節の食材、料理を意識して調理を行ってきた
*高い調理習熟度と内食習慣を持つ
*過去の生活習慣から「毎日買い物」が基本。誰かのために調理を行うことにモチベーションを感じてきた

②従来型の亭主関白お父さん層

*昔から仕事一辺倒で、家庭よりも仕事を優先してきた
*外食中心ではあったが、妻が料理を作り、家族団らんの食卓を囲むことも多かった
*外食も多く、いいものを食べた経験から食への関心は高い。食品の品質や健康などにもこだわりを持つ
*調理意欲や調理習熟度は高くなく、買い物もあまり日常的には行わない

③食事はなんでもおまかせ層

*昔から食への関心が高くなく、食事の時間になったら何かを食べる(=空腹が満たせればいい)
*または、入院や老人ホームなどで給食が提供されるような生活環境にある
*調理意欲や食への関心度も高くない(環境になっている)

④健康意識、体調管理意識が高い層

*昔からの暴飲暴食がたたり、食生活の改善を必要とする
*食べられる食品などが決まっているため、自身で調理を行う
*そのために買い物も日常的に行う

それぞれの属性で、若いころからの生活習慣や食事習慣によって生活スタイルが決まり、日常化した買い物行動が見られます。

広がる宅配サービス

店舗販売が落ち込んでいる中、各社小売流通もさまざまな取り組みを行っています。中でも、宅配サービスへの展開や注力度は非常に高く、市場全体も大きく伸びています。

矢野経済研究所の調べによると、食品宅配の総市場規模は、2016年度は2兆782億円、前年度比3.3%と堅調に推移したとのことです。
17 年度はさらに3.0%増となる2兆1,413 億円、21 年度には2兆3,985 億円と、年平均2.9%の拡大を予測しています。

出典:矢野経済研究所「食品宅配市場に関する調査」
出典:矢野経済研究所「食品宅配市場に関する調査」

食品宅配市場においては、共働き・子育て世代と並んでシニアが重要なユーザーになりつつあると指摘し、「従来から高齢者が主要ターゲットである在宅配食サービスのほか、生協の個配サービスやネットスーパー、自然派食品宅配、コンビニ宅配――などはシニア層を意識した品ぞろえとサービスの強化で囲い込みを図っている」としています。

ターゲットを見据えた細かなマーケティングの必要性

矢野経済研究所の調査結果としては、共働き世代や子育て世代、高齢者層を中心に食品宅配市場の需要が拡大している様子がうかがえます。

マクロ的な視点でみると「高齢者」としてひとくくりにサマリーされがちですが、先に提示した4つのターゲット分類に合わせると、同じ高齢者の中でも、過去の経験や生活習慣による部分や「便利だから」という理由だけでは変えられない生活様式があると考えられます。

①の従来型のプロ主婦層についていえば、買い物に行くこと自体が生活の一部であり、買い物の中からさまざまな情報を得たり季節を感じたりしていることが想像できます。
そういった方々に対して、「便利だから」という理由だけでの宅配サービスでは、利用者満足度に欠ける側面も出てくるのではないでしょうか。

宅配サービスへの参入企業が増えている中、同じスキームだけでは差別化が図れず、淘汰される可能性が高いと考えます。
売りの場、買いの場を考えたときに、ただ快適に物が届くだけではなく、買い物という行為自体に目を向けることも、買い物満足度の向上にはとても重要な要素になってくるのではないでしょうか。

実店舗では買い物を楽しんでもらうためにさまざまな工夫がされ、季節を先取りした売場・コーナー展開、地域住民が集って会話できるコミュニティースペース、コミュニティーイベントなどが展開されています。
例えば、宅配ではなく出張スーパーという考え方も、ターゲットによっては買い物満足度が非常に高まる展開になるのではないでしょうか。

1回目、2回目と、ターゲットの行動や心理をしっかりと把握した上でのさまざまな展開を検討してきました。
ターゲット設定や新しい販売・商品企画の切り口としても、あらためて利用者やターゲットをしっかりと見据えた展開が重要です。

セルウェルでは、さまざまなケースでのターゲット分類、ターゲット分析からの商品企画や販売企画をご提案させていただきます。
もし、お困り事やご興味があれば一度ご相談ください。