マーケティングフレームワークに潜む罠とその対策について突発的な介護生活から考える

想像したくはありませんが、例えば、明日あなたのご両親や配偶者が、不慮の事故や何かのきっかけで、要介護となった場合、どのような行動をとるでしょうか??

恐らく、交通事故や高齢のご両親が家の中での移動中に転倒…などといった事が起こり、何らかの形で病院へ搬送され、診察とそこからしばらくの入院、退院後から始まる介護生活…
という流れが想像しやすい流れだと思います。

何もわからないまま病院での説明から介護生活が始まる

もう少し具体的に見てみると、病院や関係者からの電話や家にいるご家族からの電話があり、あなたは仕事中にもかかわらず、その対応に追われることでしょう。
仕事もさておき、ひとまず病院へ駆けつける。そこで医師や看護師から、状況の説明がなされ、あまり深く考える余裕もなく、入院生活が始まる。

数日後、医師や看護師から退院の説明がなされるものの、退院後に「介護が必要になる…」という説明を聞かされる。
今後迎える介護生活に不安を抱えながら、退院指導という事で、専門の看護師から退院後の介護についての説明を受ける。
食事、入浴の仕方、着替えの仕方、オムツの仕方、感染予防、体調管理などの日々の生活に関わる説明…
そして、自治体への届け出書類、介護についての免除項目、オムツ支給やオムツの捨て方などの手続きに関わる説明…
いざ、介護生活が始まると、右も左もわからず、配偶者やご家族と手探りの中で介護を行う。
オムツや介護用品が足りなくなり、自分でドラッグストアに買いに出かける。
こうして、慣れない介護生活が始まる…

マーケティングのフレームワーク「4P」で考えてみる

介護に対する不安をあおるために、介護生活についての説明をしたわけではなく、この事象をマーケティング視点で見てみると、介護用品を扱うメーカー(=とりわけ新規参入やまだ経験が浅いメーカー)としては、マーケティングのやり方が、一般論として語られるマーケティング理論とは異なってくるという事が想像できる。

一般的なマーケティング理論として、「オムツ」という商材で、「4P」という事に目を向けてみる。すると、介護用オムツをどう売るか?という事でマーケティング戦略を立てていくことになる。
Product:大人用オムツ商品
Place:既存販路があり、取扱いの大きいドラッグストアチャネル
Price:子供用オムツと比較しても機能面や吸収容量、サイズなどで割高に設定
一方で、購入すると想定される主婦世帯の価格価値観に合わせる。
Promotion:ドラッグストアチャネルに来店し、購入の主となり得る主婦層に向けての展開
TVCM、雑誌広告、インターネット広告、店頭プロモーション、価格プロモーション…
と考えるのが、一番簡単であり、王道のケースではないかと推測できる。

ただ、この方針でのマーケティング展開を行うと本当に売りに結びつくだろうか??
先ほどの介護生活までの、流れを見てみると、

家族の誰かが事故などで病院へ運ばれる

病院へ呼び出され、入院を言い渡される

退院時に、退院指導をされる

介護生活が始まる
という流れであった。

この場面を改めて考えてみた時に、「オムツ」のブランド接点はどこにあったであろうか。
先ほど検討した王道のマーケティング(=先の4P)であれば、日常生活の中の、TVCMであり、店頭プロモーションという事になる。

ブランド接点はどの場面で起きているのか

ただ、1点考えてみていただきたいのは、多くの方が、介護という実態は認識しているものの、自分にはあまり関係がない・・・と思っているのではないでしょうか。

そんな一般生活者が、日常生活の中で、介護×オムツのCMを見ても記憶に残らないし、店頭でもそもそも売場に行かないと考えられる。
介護生活までの流れの中を見返してみると、

家族の誰かが事故などで病院へ運ばれる

病院へ呼び出され、入院を言い渡される

退院時に、退院指導をされる

介護生活が始まる

という中で、3つ目の退院指導時に以下の説明がなされている。
*食事、入浴の仕方、着替えの仕方、オムツの仕方、感染予防、体調管理などの日々の生活に関わる説明…
*そして、自治体への届け出書類、介護についての免除項目、オムツ支給やオムツの捨て方などの手続きに関わる説明…
ここで、初めて「オムツ」というキーワードが出てきており、対象者は「オムツ」についての情報を得ることになる。

例えば、このタイミングで、退院指導を行ってくれる看護師から「オムツはこのブランドがオススメ!」であったり、「当病院では、このブランドを使っている!」であったり、という事を説明されたら、説明を受けている対象者はどう思うであろうか?
きっと、「病院でオススメしている、病院で使っているのであれば、安心だ」となり、刷り込み効果で、自宅での介護が始まっても、病院で推奨された商品を選択するのではないでしょうか。

商売全体を見据えたマーケティングと準備が必要

先に説明した通り、実購入者を見たマーケティングを行うと、間違ったコミュニケーションを行う事になる可能性を秘めているという事を認識いただきたい。
すべての行動(広告宣伝、販促活動、営業活動など)は、この間違ったマーケティング戦略で進んでしまい、効率的な展開ができない状況が続いてしまうと考えられる。

マーケティング戦略立案にあたっては、実購入者をみるのではなく、コミュニケーション戦略を検討するにあたっても、「商売の流れ、ブランド接点がどの場面で起こるのか、そのために何を行うのが最適なのか」という事をしっかりと見据えたリサーチや各種準備が必要と考えられます。